2021年2月22日の夜。BSーTBSの「歴史鑑定」シリーズ(番組進行役=田辺誠一サン)で「二・二六事件・・・緊迫の四日間」を観る。この番組は「一面的な視点だけ」を「あたかも全貌であるかの如く」語ることが多いので 今回も期待せずに眺めていたのだが あまりの酷さに途中でテレビを消したくなった。
この番組によって「二・二六事件」を初めて知った人は 青年将校たちの決起は「軍隊を蔑ろにする要因を排除するための行動だった」と短絡的に理解するだろうと思う。そこには 当時の世相(例えば、東北農村の惨状)についての紹介は一切ない。番組タイトル「歴史鑑定」ということで 今回はS氏が画面に度々登場する。というよりも S氏ひとりだけが「二・二六事件」について鑑定を加えていく。当然 内容も一方的な視点に縛られたものになっていく。
因みに 須崎慎一氏(1946年生)について ネット検索してみよう。須崎氏の著作①=「二・二六事件」1988年刊(岩波ブックレット)。著作②=「二・二六事件/青年将校の意識と心理」2003年刊(吉川弘文館)。
著作②の要約として「(事件は)純真な青年将校達が農村の窮状を憂えて決起したと語られ続けてきた。しかし、著者は東京地検記録課で限定的に公開されている裁判記録を読み解き、教科書的な『常識』の虚構を白日の下に曝している」とネットには記されている。
暗黒裁判の記録だけを金科玉条の如くとりあげて それ以外の真実を「虚構」と決めつける・・・。唖然とするという言葉しか 私には思い浮かばない。吉川弘文館の出版物も レベルダウンしたということだろうか。
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一夜明けて 2021年2月23日の昼下り。NHKーBS1「二・二六事件の全貌(完全版)」再放送を観る。
この番組は 2019年8月15日(19時32分~20時43分)に放映された「全貌二・二六事件~最高機密文書で迫る~」をもとに《 新たな取材を加えて》2020年2月23日(22時00分~23時50分)に「完全版」として放映された作品らしい。当然 70分番組と110分番組では 情報量が違ってくる。そして 思いがけない方々が登場したりもする。
タイトルに「全貌」と謳う理由は 海軍将校だった富岡氏が今まで秘匿してきた「最高極秘文書」全六冊の内容を《新たな真実》として描いているからで 陸軍側の資料に親しんできた私には「初めて知る情報」の連続であった。
勿論 この番組で描かれたことが完全なる「事件の全貌」であるとは思えない。川島陸相が「真崎大将による軍事政府樹立を決意した」瞬間があったこと。昭和天皇が(海軍と決起部隊の合流を心配して)発言が揺れ動いた瞬間があったこと。陸軍も海軍も決起部隊と密かに繋がっていた瞬間があったこと。それぞれに「そういう瞬間」があったことは事実だろう。
しかし「2月26日より7日も前に、海軍は事件勃発の全てを把握していた」という証拠として「岡田首相 高橋蔵相 鈴木侍従長など襲撃対象者が記されていた」とか「栗原中尉など決起将校の顔ぶれも記されていた」とか《極秘文書》の《その部分》が画面に登場してくると 流石に疑問も沸いてくる。この「最高秘密文書」の全頁が本当に《その日》に書かれたものだったか ということである。
事件発生の7日も前に 岡田首相以下が襲われることを知りながら 護衛強化などの対策を一切しなかったのは何故か。通常の護衛任務で斃れた警官5氏(村上・土井・清水・小舘+皆川氏)が あまりにも気の毒ではないか。
この番組を「過去形」でなく「現在進行形」にしているのは 事件関係諸氏を多数登場させた構成の妙にある。
今泉章利サン(慰霊像護持の会) 安田善三郎サン(仏心会)が登場 インタビューに答えている。今泉氏の後方には香田サン(仏心会代表世話人)の姿も映っている。
斉藤百子さん(斉藤実氏の孫=94歳)の「歴史の話と 我が家の話とは、全然違いますもの・・・」との言葉に心を打たれたが 何よりも嬉しかったのは 波多江たま様(対馬勝雄中尉の妹さん=104歳)の登場である。
穏やかな表情で「全責任を青年将校に押しつけて 不都合な事実を隠した」と語る静かな怒りは 104歳の高齢者のものとは到底思えない。「農村の貧しさを見ていられなくなった・・・」「貧富の差が強すぎたので我慢できなくなった・・・」。対馬中尉の無念な思いを伝え続けるために 波多江たま様は長寿を貫いてきたのだと思う。
波多江たま様は(前後編2時間の)番組のほぼ終盤にも登場する。その登場画面に「2019年6月29日に逝去した」という字幕が出て 葬儀の場面が紹介され 孫の波多江輝明サンも登場する。番組番組制作者の心配りを感じて「波多江たま様の追悼番組」であったかのような好印象が残った。(末松)
この番組によって「二・二六事件」を初めて知った人は 青年将校たちの決起は「軍隊を蔑ろにする要因を排除するための行動だった」と短絡的に理解するだろうと思う。そこには 当時の世相(例えば、東北農村の惨状)についての紹介は一切ない。番組タイトル「歴史鑑定」ということで 今回はS氏が画面に度々登場する。というよりも S氏ひとりだけが「二・二六事件」について鑑定を加えていく。当然 内容も一方的な視点に縛られたものになっていく。
因みに 須崎慎一氏(1946年生)について ネット検索してみよう。須崎氏の著作①=「二・二六事件」1988年刊(岩波ブックレット)。著作②=「二・二六事件/青年将校の意識と心理」2003年刊(吉川弘文館)。
著作②の要約として「(事件は)純真な青年将校達が農村の窮状を憂えて決起したと語られ続けてきた。しかし、著者は東京地検記録課で限定的に公開されている裁判記録を読み解き、教科書的な『常識』の虚構を白日の下に曝している」とネットには記されている。
暗黒裁判の記録だけを金科玉条の如くとりあげて それ以外の真実を「虚構」と決めつける・・・。唖然とするという言葉しか 私には思い浮かばない。吉川弘文館の出版物も レベルダウンしたということだろうか。

一夜明けて 2021年2月23日の昼下り。NHKーBS1「二・二六事件の全貌(完全版)」再放送を観る。
この番組は 2019年8月15日(19時32分~20時43分)に放映された「全貌二・二六事件~最高機密文書で迫る~」をもとに《 新たな取材を加えて》2020年2月23日(22時00分~23時50分)に「完全版」として放映された作品らしい。当然 70分番組と110分番組では 情報量が違ってくる。そして 思いがけない方々が登場したりもする。
タイトルに「全貌」と謳う理由は 海軍将校だった富岡氏が今まで秘匿してきた「最高極秘文書」全六冊の内容を《新たな真実》として描いているからで 陸軍側の資料に親しんできた私には「初めて知る情報」の連続であった。
勿論 この番組で描かれたことが完全なる「事件の全貌」であるとは思えない。川島陸相が「真崎大将による軍事政府樹立を決意した」瞬間があったこと。昭和天皇が(海軍と決起部隊の合流を心配して)発言が揺れ動いた瞬間があったこと。陸軍も海軍も決起部隊と密かに繋がっていた瞬間があったこと。それぞれに「そういう瞬間」があったことは事実だろう。
しかし「2月26日より7日も前に、海軍は事件勃発の全てを把握していた」という証拠として「岡田首相 高橋蔵相 鈴木侍従長など襲撃対象者が記されていた」とか「栗原中尉など決起将校の顔ぶれも記されていた」とか《極秘文書》の《その部分》が画面に登場してくると 流石に疑問も沸いてくる。この「最高秘密文書」の全頁が本当に《その日》に書かれたものだったか ということである。
事件発生の7日も前に 岡田首相以下が襲われることを知りながら 護衛強化などの対策を一切しなかったのは何故か。通常の護衛任務で斃れた警官5氏(村上・土井・清水・小舘+皆川氏)が あまりにも気の毒ではないか。
この番組を「過去形」でなく「現在進行形」にしているのは 事件関係諸氏を多数登場させた構成の妙にある。
今泉章利サン(慰霊像護持の会) 安田善三郎サン(仏心会)が登場 インタビューに答えている。今泉氏の後方には香田サン(仏心会代表世話人)の姿も映っている。
斉藤百子さん(斉藤実氏の孫=94歳)の「歴史の話と 我が家の話とは、全然違いますもの・・・」との言葉に心を打たれたが 何よりも嬉しかったのは 波多江たま様(対馬勝雄中尉の妹さん=104歳)の登場である。
穏やかな表情で「全責任を青年将校に押しつけて 不都合な事実を隠した」と語る静かな怒りは 104歳の高齢者のものとは到底思えない。「農村の貧しさを見ていられなくなった・・・」「貧富の差が強すぎたので我慢できなくなった・・・」。対馬中尉の無念な思いを伝え続けるために 波多江たま様は長寿を貫いてきたのだと思う。
波多江たま様は(前後編2時間の)番組のほぼ終盤にも登場する。その登場画面に「2019年6月29日に逝去した」という字幕が出て 葬儀の場面が紹介され 孫の波多江輝明サンも登場する。番組番組制作者の心配りを感じて「波多江たま様の追悼番組」であったかのような好印象が残った。(末松)